2015.08.18

モバイルプラットフォームでのオープンソース系OSの活用について

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上月です。クラウドの対になる側のモバイルプロダクトの商品企画を担当しており、特にスマートフォンに代表されるスマートデバイス向けのOSの導入に携わっています。その中でもプロプライエタリなOSではなく、オープンソース系OSに強い興味を持ち、通信事業者としてそれらをどのように活用することができるか?というテーマに取り組んでいます。今回は、これまでの当社でのモバイルプラットフォームへのオープンソースの導入経緯や企業での利用、それらの経験から私なりのオープンソースに対する考え方、展望について述べたいと思います。

果たしてオープンソースはモバイルプラットフォームに利用できるのか?

この課題は当社が初めてモバイルプロダクトにオープンソースのOSを導入するかどうかの検討をした際にまず目の前に立ちはだかった最大の壁でした。当社のau携帯電話ではそれまでは米国半導体メーカのQualcomm社のBREW(Binary Runtime Environment for Wireless)を2002年よりフィーチャーフォン用プラットフォームとして利用してきました。しかしながら基本的にシングルタスクで動作するOSでは当時急速に進化していたPCを使ったマルチタスク前提、複数のイベントの同時処理等を要する機能やサービスをモバイルで利用するには様々な制約が出始めていました。それらを解決する為に色々なアプローチで対応しようとしたものの膨大な開発期間、開発コストを要することになってしまいました。

そのような中、Google社より2008年にLinuxをベースとし、その上位レイヤーにJavaプログラムの実行環境や最新のインターネット技術を盛り込んだAndroid OSがオープンソースとしてリリースされました。そのAndroid OSに興味はあったものの私自身が実際に端末に触れたのはGoogle社のオフィスに伺った際の何とも不思議な操作体験であり、とても興味を持ったことを今でも鮮明に覚えています。しかしながら通信事業者である当時の当社内ではオープンソースのモバイルプラットフォームの採用実績は全くなかった為、スムーズに推進することは困難でした。その後、業界内でも次第にスマートフォンに興味を持つ人が増え、実際に端末メーカや通信事業者と様々な動きが活発化し、その流れを受けて当社でも開発に着手することになりました。

オープンソースは利用すべき?避けるべき?Android端末の開発を通じて実感したこと

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オープンソースAndroid端末として初のワンセグテレビ、緊急地震速報に対応した「IS01」

「オープンソースは利用すべき?避けるべき?」という課題については特に企業においてはよく議論が起こるテーマだと思います。しかし当時の開発チームで出た結論を先に書きますと、「味方につけるのが得策」ということに直ぐに至りました。このBlogをご覧の皆様では既にそれは半ば常識と思われている方が多いことと思います。しかし既にサーバ分野では何年も前よりLinuxに代表されるオープンソースOSの商用利用が増加し、実績も豊富に存在していたのに対して、モバイルデバイスの世界ではまだ使いものになるのか?といった意見が根強くあり、私自身もまだ何が起こるか分からないと身構えていました。日本国内向けのプロダクト且つそれがコンシューマ用ともなると高い品質レベルが例外なく問われます。さらにグローバル仕様ではカバーされない日本市場独自の赤外線通信機能やワンセグテレビ、FeliCa機能、緊急地震速報対応や分かり易いUIなど様々な機能の追加開発も必要でした。なぜ直ぐにオープンソースは味方につけるべきものと考えたかについてですが、当時端末開発時に実感した事象でした。それは、結局自分達が新たに作ったソフトウェアよりもオープンソースで提供されているソフトウェアの方が断然安定していて、しかも必要なものがオープンソースとして誰かが作ったものが公開され、揃ってきているという事象でした。それまでどんな事になっているのか知らなかった自分にとっては良い意味でショッキングなことでした。ちなみにその頃はまだ3G全盛の時代で、当社でもシャープ社とAndroid初期モデル開発の最中でしたが開発メンバー間では、世界でLTE導入が開始される時点でのモバイルプラットフォームは全てAndroidスマートフォンになるだろう、という予想もしていて、まさにその通りとなりました。

企業によるオープンソースへのコントリビューションの意義について

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オープンソースのAndroidを搭載した端末として、初めてFeliCa機能に対応した「IS03」

これは今でも様々なパートナー企業の現場の方々から耳にしたり今でも時々相談いただくこともあるテーマですが、企業が自社のノウハウ、人的リソース、コストを消費して折角作り上げたソフトウェアをどうして無償で公開、強いては競合する企業までもが利用できるように提供するのか?という課題が立ちはだかります。自社によるソフトウェア開発の歴史がある企業ほどその葛藤に悩まされるケースが多いと思います。しかしこの葛藤もAndroidスマートフォンの開発を通じて直ぐに「コントリビューションすべき」という結論に至ることができました。幸いなことに当社の場合、モバイル向けソフトウェアの開発の歴史はそう長いものではありませんでしたのでコントリビューションすることに異議を唱える人は居ませんでした。

結局自分達が何を作りたいのか?それはどんな方法で実現しようとしているのか?ということを自社に閉じて行っていると必ずと言ってよい程、世間ズレを起こすことになり、実現がより遠のいてしまいます。自分達のアプローチが合っていても間違っていても公開することによりコメントやアドバイスを得ることができます。例えばFeliCa機能の搭載実現時もそうでした。もし特定の端末だけで独自の実装で排他的に行っていたら誰からも協力を得られなかったと思います。今では日本で販売されている殆どのAndroidスマートフォンにFeliCa機能が搭載されていますが、その実現にはOS開発会社、端末メーカ、FeliCaチップメーカ、FeliCa運営会社、サービスプロバイダ、通信事業者がセキュリティの担保方法も含めオープンな場で議論することによって限られた時間の中でも実現することができました。特にセキュリティの担保方法は各社の考えを尊重する必要もあり、シリコンバレーにあるGoogle社へも関連する企業の方々と共に直接出向き、現地で相談に乗っていただき実現することができました。ちなみにシリコンバレーにはこのプロジェクトを通じて何度行ったか分からない程頻繁に通いました。これらの取組みのメリットは今日のスマートフォンに数多く搭載されている各種デバイス(タッチパネルディスプレイ、センサー類等)にも当てはまります。それらデバイスを動かすドライバソフト、ライブラリを公開することにより、その”作法”に合わせた様々なツールを作る人が外から現れ、そのデバイス自体を作ったメーカですら思いつかないような使いか方が出てきたりもします。これはクラウド側のアプリケーションでのWebAPIの公開で起こっている現象と同様のものと思います。世間の動きと一緒に自社のプロダクトやサービスを追随させることが容易となり、今の時代には欠かせない考え方であると思います。クラウド側の進化が著しい現在において、その対となるクライアント側のモバイルデバイスにおいてもその進化に応えていく為には必然的な流れと言えるでしょう。ちなみに当社ではその後、モバイルデバイスのみならずグループ会社のケーブルテレビ会社(J:COM社、JCN社)向けのAndroidを採用したセットトップボックスをパナソニック社とともに開発し、一般のお客様にご利用いただだいております。

モバイルへのWebプラットフォーム技術の応用

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オープンソースでWeb OSの「Firefox OS」端末として、初めてLTEネットワークに対応した「FX0」。

Androidがここ数年の間に大きな進化、普及を果たし、既に機能も芸術的ともいえる領域まで至ってきた中、今度はWeb技術をモバイルプラットフォームそのものに活用する新たな動きが出てきました。古くは米国のPalm社が2009年に発表したWebOSというものがありましたが同OSはその後にHP社へと移り2011年にオープンソース化され、現在ではLGエレクトロニクス社が事業を引き継ぎ同社のスマートテレビ等で利用されています。

その後、2011年に米国Mozilla社より同じくWeb技術を全面的に利用した現在のFirefox OSの元となるB2G(Boot to Gecko)の構想が発表され、2013年以降複数の端末メーカ、通信事業者により提供が開始されました。当社でもWebAPI同様にデバイスまでもがWebAPIと同様にHTML,CSSやJavascript(総称してHTML5)で制御可能という仕組みが斬新であり興味を持った為、当社としても2012年に同OSへの賛同表明を行い2014年に「Fx0」というFirefox OS端末をLGエレクトロニクス社と開発し、世界で初めてとなるLTE対応Firefox OSスマートフォンとしてギークなお客様向けの特別なプロダクトとしてリリースしました。その他、モバイルデバイスではありませんが、今年の新たな動向としては5月にパナソニック社よりFirefox OSを採用したスマートテレビも発売が開始されています。

モバイルプラットフォームの今後の展望

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当社が出資する米国スタートアップ企業 Monohm Inc.による、WoTの具現化を目指したデバイス”Runcible”のイメージ。

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”Runcible”の利用イメージ

私の周囲にはできればNativeではなくWeb技術でモバイルアプリケーションを作れれば理想という人は多くいます。しかながらそこにはまだ技術的にもビジネス的にも議論が存在し様々な企業が模索している最中といえます。まだ暫くはその議論は続くものと想定します。しかし重要なことはより多くの人や企業がオープンな環境で試行錯誤しながら新たなイノベーションを起こしたり、素晴らしいプロダクトやサービスを生み出すことにあると考えます。あらゆる意味で色々なモノや情報がオープンに繋がり合っていく世の中においては外部と連携したモノづくりは今まで以上に重要になってくるものと思います。

1991年に世界初となるWebサイトの公開が始まって以来、インターネットといえば殆どの人がWebをイメージするまで拡がり、多くの人の生活に溶け込み、さらに進化を続けています。その背景には数え切れない程の人々の貢献があったものと思います。そのフェアなインターネット、Web技術が媒体となり、従来のプロダクトの範囲にとどまらず、「モノのインターネットと呼ばれる」IoT(Internet Things)やWoT(Web of Things)、A.I.(Artificial Intelligence:人工知能)、ロボティクス分野やハードウェア作りにおいてもより一層重要なものになると思います。その為、当社でもこれまでの考え方にとらわれることなく、絶えず環境の変化や技術の進化に追随し、オープンソースに対しても継続的なコントリビューションを続けながら、フレキシブルなモノづくりを、パートナー企業や団体、コミュニティの方々と一緒に推進していきたいと考えています。

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KDDI株式会社
商品・CS統括本部 商品企画部

上月 勝博

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